かちっとね

‘Being surrendered’ – 自然な流れ

店主はいった。`なんだかわからないけど、カチッとね。カチッときたんだよ。` その日は、変な日だった。この`カチッとね。`と言ったのは、彼が最初ではなかった。

早朝にせがむ息子につられて乗った、人力車のお兄さん。九州出身で、寿司職人を目指して、東京に出てきたはずなのに、ある日、人力車で体を動かすことに`カチッときた`。理由なんかわからないよ。ただ心地よい。そういった。

店主の話に戻ると、帰国してすぐに、浅草をふらふらしていたある日。なんとなく、窓に展示されていた、小さな`絵`に惹かれた。古い商店街の中のあまり目立たない感じの、銀細工のお店だった。思わずお店の中に入り、店主に言った。

`あそこに飾られている絵、いいですね。`

店主は苦笑した。

`僕が描いたんだよ。ずっと若い頃にね。ありがとう。僕は、絵描きになりたかったんだよ。絵の為なら全て捨てると思ってたし、捨てた。親も捨てたし、何もかも。`でも、結局、生きていけなかった。

自分の人生に`裏切られた`と挫折した時、やっと、`調和`が戻ってきた、といった。家族や地元に残してきた人間関係との調和、そして、自分自身との調和。自分がこれからどうしていこうか、途方に暮れていた時、銀細工の工房に、`カチッと`きた。

笑顔を見せてくれた、その笑顔でもう充分だった。心って、私たち自身が`考える`こと以上に大きな枠組みの中で、幸せとは、を教えてくれてるみたいだった。

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